エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?復習はいつするのが一番効率的なのか③
復習を効率的なにおこなうためには、どうしても「エビングハウスの忘却曲線」について正しく理解しておく必要があります。
なぜなら、「エビングハウスの忘却曲線」は、復習にかかる時間がどれだけ節約されるかを表した曲線だからです。
前回述べたように、エビングハウスは、決して「忘却の割合」すなわち「忘却率」を探ろうとして記憶の実験をしたのではなく、
あくまでも、「復習にかかる時間が節約される割合」、すなわち「節約率」を明らかにしようとして実験をおこなったのです。
では、エビングハウスは、「節約率」を、どのような方法で確かめようとしたのでしょうか?
それを知るために、今回は、エビングハウスの記憶に関する実験がどのようにおこなわれたのか、具体的に見ていきたいと思います。
エビングハウスの記憶実験はどのような方法でおこなわれたのか?
ドイツの心理学者で哲学者でもあったヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus、1850~1909年)は、1873年にボン大学で哲学の博士号を取得した後、1878~1879年に第一回目の記憶実験をおこないました。
彼は1880年にドイツのベルリン大学の講師になりましたが、彼の第二回目の記憶実験は、第一回目の実験の影響が表れないように3年間の間隔を空けて、1883~1884年におこなわれました。
彼はこれらの二回にわたる記憶の実験によって、「記憶」が時間の経過とともにどのように変化するのかを明らかにしようとしたのですが、
当時は、人間の「記憶」について「実験」をして何かを「証明」する、などということは絶対に不可能である、という考え方が一般的に信じられていました。
その考え方に真っ向から挑戦し、「記憶」について「実験」をして、「記憶」は時間の経過とともに変化するがその変化には法則があるということを「証明」してみようとしたのが、若き研究者エビングハウスだったのです。
エビングハウスの記憶実験がおこなわれた具体的な手順とは?
彼は、次のような方法でその実験おこないました。
まず、彼は、母音で分けられた2つの子音で構成される「無意味な音節」を約2,300個作りました。たとえば、「baf」とか「nog」といったように、何の意味も表さない音節ということです。
エビングハウスはドイツ人でしたから、母音は11個(auやeuを含む)、子音は19個(chやschを含む)使用しました。
その「無意味な音節」を箱から無作為に何個か(少なくて10個、多いときは36個)を取り出し、メトロノームの音に合わせて一定の間隔で読み上げ、記憶します。
ちなみに、一定の間隔とは毎分150個だったといいますから、「無意味な音節」1個あたり0.4秒です。すっごく速いですね!
最初から最後まで繰り返し読んで、間違えずに2回暗唱できたら覚え終わった(学習が完了した)として、次の組に移ります。
これを8組(~13組)までおこないます。第一回目の実験では、全部で168個の「無意味な音節」を暗唱したといいます。
全部の組を覚え終わったら、かかった時間と、覚えるまでに繰り返した回数を記録します。
20分後に、もう一度記憶し直し、再び全部の組を覚え終わるまでの時間と回数を記録します。
そして、「最初に記憶した時」と比べてどのくらいの時間(または回数)節約できたかを計算するのです。
その節約できた割合が20分後の「節約率」となるわけです。
同じようにして、別の何個かの「無意味な音節」を8組覚え、覚え終わってから1時間後に、もう一度記憶し直し、再び全部の組を覚え終わるまでの時間と回数を記録します。
そして、「最初に記憶した時」と比べて節約できた割合が1時間後の「節約率」というわけです。
同じようにして、9時間後、1日後、2日後、6日後、31日後の「節約率」を計算して出します。
その「節約率」の数値をグラフで表したものが、いわゆる「エビングハウスの忘却曲線」ということになります。
エビングハウスの記憶実験について指摘されている問題点とはどんなことなの?
このようにしてエビングハウスは、人間の「記憶」について「実験」をして、「記憶」は時間の経過とともに変化するがその変化には法則があるということを「実証」して見せたのです。
さらに彼は、実験結果の信頼性を高めるために、この実験を一回だけではなく、二回おこないました。
しかも慎重を期するために、第二回目の記憶実験は、第一回目の記憶実験の影響が及ばないようにと1,000日以上の間隔を置き、3年経ってからおこなったのです。
しかし、残念ながら、この二度にわたるエビングハウスの記憶実験については、いくつかの問題点が指摘されています。
その主だったものを挙げると、
第一に、記憶する材料として「無意味な音節」を使用したということ。
第二に、エビングハウス自身がこの記憶実験の被験者であったということ。
その他にも、2回暗唱できたら覚え終わったことにして次の組に移ってしまったということなど、いくつかの問題点が指摘されています。。
では、何故これらのことが問題なのでしょうか?そして、何故エビングハウスは問題があると指摘されるこのような方法で実験をおこなったのでしょうか?
それらの問題点については、次回、検討してみたいと思います。
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【エビングハウス10講】
① エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?
② エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?
③ エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?(今回の記事)
④ エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?
⑤ エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?
⑥ エビングハウスの記憶実験から導き出された記憶に関する法則とは?
⑦ エビングハウスの忘却曲線から導き出された復習のベストタイミングとは?
⑧ エビングハウスの記憶実験から導き出された受験生向けの「一番効率的な復習法」とは?
⑨ エビングハウスの「節約率」で説明できる「一番効率的な復習法」!
⑩ エビングハウスの記憶実験と海馬と偏桃体が織りなす記憶のメカニズム!
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次回記事:エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか④
このシリーズの前回記事:エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか②
前回記事:エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか②
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