エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか②
復習を効率的におこなうためにはいつ復習すればいいのか?
それを知るためには、「エビングハウスの忘却曲線」が大いに役立ちます。私たちの勉強方法や復習の仕方に取り入れるべき多くのことが学べるからです。
前回は、ほとんどの書籍やインターネットの解説が「エビングハウスの忘却曲線」の数値を「忘却の割合」や「記憶していた量の割合」を表したものとして説明しているが、それは間違っているということ、
エビングハウスの忘却曲線が表している数値は、時間の経過とともに変化する「節約率」である、ということについて見てきました。
それでは、エビングハウスは、「節約率」を、どのような方法で数値化したのでしょうか?
エビングハウスの忘却曲線が表している節約率は記憶率や忘却率とは違う?
ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus、1850~1909年)がおこなった記憶実験について正しく理解するためには、節約率と、記憶率や忘却率との違いについて知っておく必要があります。
というのも、エビングハウスの記憶実験で彼が計算して出した数値は、「節約率」であって、決して「記憶率」や「忘却率」ではなかったからです。
彼は記憶実験で、記憶対象を「完全に覚えた」後、
20分後、1時間後、9時間後、1日後、2日後、6日後、31日後に「再学習」して、
「再学習する時にかかった時間」が「最初に覚える時にかかった時間」と比べてどれくらい節約されたか(節約率)、を計算しました。
決して、どれくらい覚えていたか(記憶率)や、どれくらい忘れていたか(忘却率)、を計算したのではありません。
ここで大事なことは、「節約率」と「記憶率」や「忘却率」は同じではない、ということです。
確かに、再学習する時に覚えやすかった(すなわち節約率が高かった)ということは、それだけ記憶していた量が多かった(記憶率が高かった、忘却率が低かった)と言えそうですが、
しかし、それはあくまでも推測であって、科学的に実証されてはいないのです。
1時間後の「節約率」が44%だったということは、
「再学習する時にかかった時間」が「最初に覚える時にかかった時間」と比べて44%節約された、ということであって、記憶していた割合が44%であったかどうかは分からないのです。
記憶していた量はもっと多かったかも、あるいはもっと少なかったかもしれません。
あくまでも、再学習する時に節約された量が44%であった、ということなのです。
エビングハウスの記憶実験はどのような方法でおこなわれたのか?
それでは、エビングハウスは、記憶実験をどのような方法でおこなって節約率を計算したのでしょうか?
記録によるとエビングハウスは、彼の記憶実験を次のような手順でおこなったようです。
まず、記憶材料を完全に覚えます。その時、覚えるまでに繰り返した回数と時間を記録しておきます。
そして、20分後に再学習をします。その時に最初に覚えた状態に戻るまでに繰り返した回数と時間を記録します。
次に、別の新たな記憶材料を覚えます。その時、覚えるまでに繰り返した回数と時間を記録しておきます。
そして、今度は1時間後に再学習をします。その時に最初に覚えた状態に戻るまでに繰り返した回数と時間を記録します。
同じようにして、別の新たな記憶材料を覚え9時間後に再学習をし、その回数と時間を記録します。
これを繰り返して、1日後、2日後、6日後、31日後の回数と時間を記録します。
このようにして、最初に覚えるまでに繰り返した回数と時間と、20分後、1時間後、9時間後、1日後、2日後、6日後、31日後に再学習をした時に繰り返した回数と時間とを比べ、
再学習する時にどれくらい回数と時間が節約されたか(節約率)を数値で表したのです。
エビングハウスの記憶実験では節約率をどうやって計算したの?
では、エビングハウは、「節約率」をどのようにして計算したのでしょうか?
実は「節約率」を計算する方法には、覚えるまでに繰り返した「回数」で計算する方法と、覚えるまでにかかった「時間」で計算する方法の二つがあります。
まず、覚える時に繰り返した回数で「節約率」を計算する場合は、次のように計算します。
最初に覚える時に繰り返した回数が25回だったとします。
1時間後にもう一度覚え直し、最初に覚えた状態に戻るまでに14回繰り返したとすると、
この場合、覚え直す時に繰り返した回数は、最初に覚えた時に繰り返した回数と比べて11回、回数を節約できたことになります。
この場合、節約できた回数の割合、すなわち「節約率」は、
11(節約された回数)÷ 25(最初に繰り返した回数)= 0.44
と計算され、節約率は44%となるのです。
次に、覚えるまでにかかった時間で「節約率」を計算する場合は、次のように計算します。
最初に覚えるのにかかった時間が50分だったとします。
1日後にもう一度覚え直し、最初に覚えた状態に戻るまでに33分かかったとすると、
この場合、覚え直す時にかかった時間は、最初に覚えた時にかかった時間と比べて17分、時間を節約できたことになります。
この場合、節約できた時間の割合、すなわち「節約率」は、
17(節約された時間)÷ 50(最初にかかった時間)= 0.34
と計算され、節約率は34%となります。
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以上のようにして、エビングハウスは、20分後、1時間後、9時間後、1日後、2日後、6日後、31日後の「節約率」を計算して出しました。
その数値をグラフで表したものが、いわゆる「エビングハウスの忘却曲線」なのです。
では、「エビングハウスの忘却曲線」の数値、すなわち「節約率」は、私たちの勉強のやり方、特に復習の仕方にどう生かすことができるのでしょうか?
それを知るためには、エビングハウスの記憶実験について指摘されているいくつかの問題点について理解しておく必要があります。
ということで、次回は、エビングハウスの記憶実験がどのようにおこなわれ、どのようなことが問題点として指摘されているのか、について見ていきたいと思います。
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【エビングハウス10講】
① エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?
② エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?(今回の記事)
③ エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?
④ エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?
⑤ エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?
⑥ エビングハウスの記憶実験から導き出された記憶に関する法則とは?
⑦ エビングハウスの忘却曲線から導き出された復習のベストタイミングとは?
⑧ エビングハウスの記憶実験から導き出された受験生向けの「一番効率的な復習法」とは?
⑨ エビングハウスの「節約率」で説明できる「一番効率的な復習法」!
⑩ エビングハウスの記憶実験と海馬と偏桃体が織りなす記憶のメカニズム!
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次回記事:エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?復習はいつするのが一番効率的なのか③
前回記事:エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?復習はいつするのが一番効率的なのか①
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