エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?復習はいつするのが一番効率的なのか①
勉強した内容を忘れないようにするためには復習が必要です。では、いつ復習するのが一番効率的なのか?
それを知るためには、「エビングハウスの忘却曲線」について理解しておいた方がいいでしょう。
しかし、「エビングハウスの忘却曲線」について解説をしているインターネットのサイトや雑誌・書籍のほとんどの説明は、明らかに間違っています。
「エビングハウスの忘却曲線」は、決して「忘却の割合」を表したものではないからです。
それでは、「エビングハウスの忘却曲線」の数値は、いったい何を表しているのでしょうか?
エビングハウスの忘却曲線って「忘却率」を表しているんじゃなかったの?
「エビングハウスの忘却曲線」についての解説をインターネットのサイトや雑誌・書籍などで調べてみると、
そのほとんどが間違った説明をしていることに驚かされてしまいます。
つまり、ほとんどのサイトや雑誌・書籍が、
「記憶してから20分後には42%を忘却し、1時間後には56%を忘却してしまう」
というように、「エビングハウスの忘却曲線」の数値を「忘却率」(もしくは「記憶率」)として説明しているからです。
あるインターネットのサイトでは、
覚えたことを忘れてしまう割合が、時間がたつことによってどのように変化していくのかを測定した結果、
20分後には42%を忘れてしまい、
1時間後には56%を忘れてしまい、
1日後には74%を忘れてしまい、
1週間後には77%を忘れてしまい、
1ヶ月後には79%を忘れてしまった。
と説明しているのです。
また、ある書籍では、
無意味な綴りを記憶させ、その内容が時間経過によってどのように忘却されていくのかを測定した結果、
20分後には42%を忘却し、58%を記憶していた。
1時間後には56%を忘却し、44%を記憶していた。
1日後には74%を忘却し、26%を記憶していた。
1週間後には77%を忘却し、23%を記憶していた。
1ヶ月後には79%を忘却し、21%を記憶していた。
と、説明しているのです。
しかし、これらの説明は明らかに間違っています。
何故なら、
エビングハウスが実験で明らかにしたのは、時間の経過に伴って起こる「忘却の割合」や「記憶していた量の割合」ではないからです。
エビングハウスの忘却曲線の数値はいったい何を表しているのか?
それでは、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus、1850~1909年)は、いったい何について実験をしたのでしょうか?
彼が実験で明らかにしようとしたもの、それは「節約率」でした。
私たちは、時間の経過とともに記憶が薄れていくことを経験的に知っています。せっかく覚えても、覚えた次の瞬間から「忘却」が始まっていくのです。
だから、いつまでも覚えていたければ、何度も覚え直すことが必要になってきます。つまり、忘れかけたら「復習」をして、「最初に記憶した状態」に戻すという作業が必要なのです。
そしてエビングハウスは、その「復習」にかかる時間(または回数)が、時間の経過とともにどのように変化するのか、を実験で確かめようとしました。
要するに彼は、「忘却の割合」を調べようとしたのではなく、「復習」する時にどのくらい時間が節約できるか、を調べようとしたのです。
「復習」にかかる時間が短ければ、それだけ時間が「節約」されることになります。
では、「節約」される時間(または回数)の割合、すなわち「節約率」は、時間の経過とともにどのように変化するのでしょうか?
まさに、それを、エビングハウスは実験で明らかにしようとしたのです。
そして、その実験の結果、
20分後には、節約率が58.2%であった。
1時間後には、節約率が44.2%であった。
9時間後には、節約率が35.8%であった。
1日後には、節約率が33.7%であった。
2日後には、節約率が27.8%であった。
6日後には、節約率が25.4%であった。
31日後には、節約率が21.1%であった。
以上が、エビングハウスの実験結果の数値でした。
それをグラフに表したものが、いわゆる「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれているものなのです。
ちなみに、エビングハウス自身はこの曲線を「忘却曲線」とは呼びませんでした。
正しく言うならば、「エビングハウスの節約率曲線」というべきなのでしょう。
確かに、「節約率が高い」ということは、それだけ「記憶率が高い」からだ、といえなくもないでしょう。それだけ「忘却率が低い」からだとも言えるかもしれません。
でも、あくまでも、エビングハウスが実験したのは「節約率」であって、「忘却率」ではなかった、という事実は変えることができないのです。
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今回は、
「エビングハウスの忘却曲線」について解説している書籍やインターネットの解説のほとんどが、エビングハウスの忘却曲線の数値を「忘却の割合」や「記憶していた量の割合」を表したものとして説明しているが、それは間違っているということ、
エビングハウスの忘却曲線が表している数値は「忘却率」や「記憶率」はなく、「復習」にかかる時間が「節約」される割合、すなわち「節約率」である、ということについて見てきました。
では、エビングハウスは、「節約率」を、どのような方法で確かめようとしたのでしょうか?
そしてその実験の結果は、私たちの勉強のやり方、復習の仕方にどう生かすことができるのでしょうか?
それを知るために次回は、エビングハウスが記憶に関する実験をどのようにおこない、「節約率」をどのような方法で計算したのか、について見ていきたいと思います。
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【エビングハウス10講】
① エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?(今回の記事)
② エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?(今回の記事)
③ エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?
④ エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?
⑤ エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?
⑥ エビングハウスの記憶実験から導き出された記憶に関する法則とは?
⑦ エビングハウスの忘却曲線から導き出された復習のベストタイミングとは?
⑧ エビングハウスの記憶実験から導き出された受験生向けの「一番効率的な復習法」とは?
⑨ エビングハウスの「節約率」で説明できる「一番効率的な復習法」!
⑩ エビングハウスの記憶実験と海馬と偏桃体が織りなす記憶のメカニズム!
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次回記事:エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか②
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