エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか⑤

復習を効率的におこなうためには、復習にかかる時間がどれだけ節約されるかを表した「エビングハウスの忘却曲線」について正しく理解しておく必要があります。

前回述べたように、エビングハウスの記憶実験については「無意味な音節」が記憶材料として使われたことが問題点として指摘されていますが、

実は、エビングハウスの実験についてはもう一つ、彼が自分自身を被験者にして実験をおこなったということも、問題点として指摘されています。

では、何故そのことが問題となるのでしょうか?また、何故エビングハウスは、そのような実験方法を採用したのでしょうか?

今回は、その理由について、見ていきたいと思います。

エビングハウスが自分自身を被験者として実験したことがどうして問題なの?

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスHermann Ebbinghaus、1850~1909年)は、二回にわたって記憶実験をおこないました。

一回目は、1873年にボン大学で哲学の博士号を取得した後の18781879に、二回目1880年にドイツのベルリン大学の講師になった後の18831884におこないました。

彼はこれらの二回の記憶実験のどちらも、自分自身を被験者として実験をおこなったのです。

通常、この種の心理学実験は、多数(たとえば100~500人)の被験者に対しておこなわれるのが普通なのですが、エビングハウスはそうはしませんでした。

被験者が多数であればあるほどその実験結果に対する信頼性が増す、というのが一般的な評価のされ方です。

被験者が一人だけの実験結果について当てはまる法則性よりは、多数の被験者による実験結果について当てはまる法則性の方が、信頼できますからね。

つまり、被験者がエビングハウスだけであったということは、その実験結果から導き出された「エビングハウスの忘却曲線」の法則は、エビングハウスには当てはまっても、他の全ての人々にも当てはまるとは言えない、ということになります。

これが、エビングハウスの記憶実験に対して指摘されている問題点なのです。

エビングハウスは何故自分自身を被験者にして実験をおこなったんだろう?

では、そうした問題点が指摘されるのを承知で、どうしてエビングハウスは、自分自身を被験者にして実験をおこなったのでしょうか?

おそらく、エビングハウスは次のように考えたのでしょう。

第一に、実験をおこなう被験者は実験上のルールを守らなければいけませんが、被験者が多くなればなるほど、実験上のルールに従った行動をとらない人が出てきます。

例えば、多くの被験者の中には、記憶状態をチェックする決められた時刻よりも前に復習してはならないという実験上のルールに反して、意図的に実験の数値を良くするために、自主的に復習してしまう被験者が出てくるかもしれません。

第二に、心理学の実験ですから、実験期間中に過度の精神的・肉体的なストレスを受けないように注意して生活することが必要になってくるのですが、被験者が多くなればなるほど、それは無理になってしまいます。

記憶状態をチェックする決められた時刻までの間、多数の被験者全員を監視して、過度の精神的・肉体的なストレスを受けない生活を強制することは不可能ですから、被験者が多数になればなるほど予測不能のストレスを受ける可能性が増えてしまいます。

第三に、実験に使用する「無意味な音節」は被験者にとって「無意味」である必要がありますが、それを確認するためには、被験者ごとに、すべての記憶材料についてチェックしなければなりません。

例えば、前回見たように、「無意味な音節」の例として挙げたbafnogですが、普通は無意味に思われても、被験者によっては特定の意味ある言葉を連想してしまい、それ故に意味を持った覚えやすい音節になってしまうかもしれません。

その場合は、その音節を実験材料から除かなければなりませんが、そういった事前のチェックを、すべての「無意味な音節」についておこなわなければなりません。しかも、全員の被験者に対してです。

これは、被験者が多くなればなるほど、膨大な手間と時間がかかることになります。

しかし、これらすべてのことは、自分自身を被験者にすることにより、いとも簡単に解決することができます。

被験者が自分だけであれば、

第一に、自分自身を実験上のルールに従わせることは当然できます。

第二に、過度の精神的・肉体的なストレスを受けることがないように注意して生活することも可能です。

第三に、実験材料のチェックは自分についてだけで済みます。

以上の三点をクリアすれば、まず誰よりも、自分自身が一番実験結果についての信頼性に確信が持てることになります。

それこそが、エビングハウスが自分自身を被験者にして実験をおこなった最大の理由だと考えられるのです。

エビングハウスが自分自身を被験者にして実験をおこなったもう一つの理由とは?

そして最後に、彼が自分自身を被験者にして実験をおこなった理由として、もう一つ付け加えておきましょう。

それは、彼自身を被験者にして実験をおこなえば、余計なお金はかからない、ということです。

エビングハウスが第一回目の記憶実験をおこなったのは、彼がベルリン大学の講師になる2年前でした。そして、二回目の記憶実験をおこなったのは、彼がベルリン大学の講師になった3年後でした。ということは、当時の彼には、記憶実験のために多数の被験者を雇う資金的な余裕があったとは思えません。

そのことを考えると、案外この最後の理由が、彼が彼自身を被験者にして実験をおこなった大きな理由だったのかもしれません。

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【エビングハウス10講】

① エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?

② エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?

③ エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?

④ エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?

⑤ エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?(今回の記事)

⑥ エビングハウスの記憶実験から導き出された記憶に関する法則とは?

⑦ エビングハウスの忘却曲線から導き出された復習のベストタイミングとは?

⑧ エビングハウスの記憶実験から導き出された受験生向けの「一番効率的な復習法」とは?

⑨ エビングハウスの「節約率」で説明できる「一番効率的な復習法」!

⑩ エビングハウスの記憶実験と海馬と偏桃体が織りなす記憶のメカニズム!

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次回記事エビングハウスの記憶実験から導き出された記憶に関する法則とは?復習はいつするのが一番効率的なのか⑥

前回記事:エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか④

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