エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか④

復習を効率的なにおこなうために大いに参考にすべき「エビングハウスの忘却曲線」を正しく理解するためには、エビングハウスが記憶実験をどのような方法でおこなったのかについて知っておく必要があります。

しかし、前回述べたように、エビングハウスの記憶実験については、いくつかの問題点が指摘されています。

彼が、母音で分けられた2つの子音で構成される「無意味な音節」を記憶材料として使用した、というのも問題点の一つです。

それでは「無意味な音節」を使用したことが何故問題とされるのでしょうか?

また、エビングハウスは記憶実験の材料として何故「無意味な音節」を使ったのでしょうか?

エビングハウスの実験に「無意味な音節」が使われたのがなぜ問題なの?

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスHermann Ebbinghaus、1850~1909年)がおこなった記憶実験について指摘されている問題点の一つは、記憶する材料として、「無意味な音節」が使われた、ということです。

「無意味な音節」とは、エビングハウスによって創られた、母音で分けられた2つの子音で構成される音節のことで、

たとえば、bafとかnogといったように、何の意味も表さないアルファベット3文字の音節ということです。

ちなみに、ここで挙げた「baf」や「nog」というのはあくまでも例であって、実際にエビングハウスが記憶実験で使用したかどうかは分かりません。

記憶実験用に彼が作った約2,300個の「無意味な音節」は、残っていないからです。

それでは、何故、「無意味な音節」を使用したことが問題点として指摘されているのでしょうか?

それは、通常、私たちが勉強をして覚えようとする記憶材料は、「無意味な」音節ではないからです。

私たちが勉強して覚えようとするのは、語句や説明、詩や数式など、ほとんどの場合「意味のある」記憶材料です。

覚えようとする時にはまず、その「意味」を理解しようとします。

そして、その「意味」を理解することができたら、その時点でその記憶材料は、「無意味な音節」と比べてはるかに覚えやすい記憶材料となるのです。

理解できないものより理解できたものの方が記憶に残りやすいからです。

ですから、「無意味な音節」を使用しておこなわれたエビングハウスの実験結果は、私たちの通常の記憶のあり方にはそのままストレートに適用することはできない、ということが問題点として指摘されているのです。

強いて言うならば、

初めて目にする英単語は、エビングハウスの記憶材料と似ていると言えるかもしれません。確かに、初めて目にする英単語は「無意味な」音節のように見えるからです。

しかし、実際にはその英単語には「意味」があり、何を表す単語なのかを理解することができます。そして、その意味を理解した瞬間にその英単語は、もはや理解できない「無意味な」音節ではなくなり、理解できる「意味のある」記憶材料に変化しているのです。

ですから、英単語を記憶する時であっても、エビングハウスの実験の結果をそのままストレートに適用することはできない、と言わざるを得ないのです。

 

何故エビングハウスは「無意味な音節」を記憶材料として使ったんだろう?

それでは、エビングハウスは何故「無意味な音節」を作って実験したのでしょうか?

それは彼が、記憶材料の均一性にこだわったからだと考えられます。

記憶の実験をおこなうにあたっては、記憶材料を覚えて再学習する、ということを何度も何度も繰り返します。

その際、毎回ランダムに選ばれる記憶材料が、ある時は覚えやすい記憶材料の組み合わせだったり、ある時は覚えにくい記憶材料の組み合わせだったりして、偶然という不確定要素が入り込んでくることになり、実験結果の信頼性を損なってしまいます。

それを避けるためには、記憶材料によって覚えやすさが変わらない、どの記憶材料を選んでも覚えやすさが同じである、という記憶材料の均一性が必要になるわけです。

したがって、意味を持った単語や用語、詩や小説の一部分を記憶材料にしたり、新聞の記事や何かの説明文を記憶材料にすることはできないのです。

エビングハウスは実験に使用する記憶材料に、どれが選ばれても覚えやすさは同じである、という均一性を持たせたかったのでしょう。

そのためには、記憶材料に「意味」があってはならない、記憶材料は「無意味」なものでなければならない、と考えたのだと思われます。

こうして作り出された記憶材料が、母音で分けられた2つの子音で構成される「無意味な音節」だったというわけです。

さらに付け加えるならば、

エビングハウスは、実験の前に、無意味であるはずの「無意味な音節」が本当に自分にとって無意味であるかをチェックしており、

何らかの連想をすることでその「無意味な音節」に意味を持たせることができるようなものは、すべて実験材料から除いたといいます。

例えば、「ped」は「無意味な音節」ですが、「pedal」を連想することで覚えやすくなり、復習する時に「pedal」の最初の3文字というふうに考えれば思い出しやすくなりますからね。

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以上のように、

エビングハウスの実験は「無意味な音節」を記憶するという実験であったため、その結果を、私たちの通常の記憶という作業にそのまま適用することはできないという問題点が指摘されています。

さらに、エビングハウスの記憶実験については、もう一つの大きな問題点が指摘されています。それは、エビングハウスが彼自身を被験者にして実験をおこなった、ということです。

では、何故それが問題となるのでしょうか?そして、何故エビングハウスは彼自身を被験者にして実験をおこなったのでしょうか?

次回は、そのことについて見ていくことにしましょう。

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【エビングハウス10講】

① エビングハウスの忘却曲線の解説のほとんどは間違っているって本当?

② エビングハウスは記憶実験で節約率をどうやって計算したんだろう?

③ エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?

④ エビングハウスはどうして無意味な音節を記憶実験の材料として使ったのだろう?(今回の記事)

⑤ エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?

⑥ エビングハウスの記憶実験から導き出された記憶に関する法則とは?

⑦ エビングハウスの忘却曲線から導き出された復習のベストタイミングとは?

⑧ エビングハウスの記憶実験から導き出された受験生向けの「一番効率的な復習法」とは?

⑨ エビングハウスの「節約率」で説明できる「一番効率的な復習法」!

⑩ エビングハウスの記憶実験と海馬と偏桃体が織りなす記憶のメカニズム!

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次回記事エビングハウスはどうして自分自身を記憶実験の被験者にしたんだろう?復習はいつするのが一番効率的なのか⑤

前回記事:エビングハウスの記憶実験は具体的にどのようにおこなわれたのか?復習はいつするのが一番効率的なのか③

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